どーも、お笑い工学の佐々木くんです。
今回のテーマは「M-1グランプリ2001の感想」
賞レースの感想記事というのを、歴史をさかのぼってボチボチ書いて行こうかなーと思います。
みなさん、それぞれ一緒になって審査してみたりと、色々な楽しみ方をしていると思いますが、プロ的な視点でちょっと解説して行けたらな、と思います。
多分、上手く書けなくても、59回目にはうまくなる予定なので温かい目で見守っていただければ幸いです(笑)
中川家
「電車・川で溺れてる人を助けた」
この頃はまだ、出演者もみんな「M-1ってなに?」と思っていたので、現代のような4分で1テーマの漫才というのは、ほとんどいません。
中川家も、礼二さんが「電車で乗ろうと思って、乗れなかった人のマネをする」をお兄ちゃんがさせない〜という大喜利を、ツカミとして冒頭にくっつけています。
というのもあって、全体的に大阪の賞レース感も少しありますね。
スタイル的には、ツッコミの礼二さんのエピソードトークを喋って、横から茶々を入れてボケて行きます。
このスタイルってボケの数を増やすことが出来ます。
オードリーも使ってますよね。これをボケツッコミ逆にして、さらに効率化したのがナイツ。賞レースというのを意識しての事かもしれませんね。
やはりね、正統派漫才というか、王道をうまくこなせる人たちは安心感がありますね。
何より、礼二さんのプレイヤーとしての能力の高さ。
ツッコミもうまいし、キャラクターも出てるし。
ボケ一個一個もつよくて、テンポの畳み掛けもあって、時にイラついた時にキャラクターも出て...笑ってしまいますね(笑)
プレッシャーもあったと思いますが、改めて見て、トップバッターでこのパフォーマンスはとても凄いと思いました。
フットボールアワー
「早口言葉・不良・エレベーターガール・迷子のアナウンス」
今や売れっ子芸人となったフット後藤さんの、超若手漫才師時代。
結成2年でここまで来るなんて、超エリートですよね。
大阪NSC14期ということだから、芸歴で言っても、5〜6年とかだろうし。
やはりフットさんも、お互いキャラクターの片鱗は見えつつも、この頃は正統派漫才という感じ。
そしてご本人たちも言ってましたが、今まで受けたネタの断片をくっつけた「ベスト版」という感じの作りになっています。
本当にこの時点でも充分うまいと感じますが、ここからお笑いモンスターの覚醒が始まるとは・・・
「てっちりをお持ちの〜」が僕は好きです(笑)
チュートリアル
「現代風 桃太郎」
ここにもTVスターが出ていました。
何というか衣装がまだ、THE・大阪の漫才師という感じですね(笑)
ベロアにゼブラ柄ってスゴイ。
シュッとしてるというか、派手〜という感じ。
この頃の関西勢はベロア率高めです。
あとこの頃は福田さんがまだテカっています。
肝心のネタですが、現代風 桃太郎。
と言いつつ、ドラマ版って感じですね。
後半、徳井さんの一人芝居ショーという感じになって来ます。
元々ドラマが好きなんでしょうね。
2005年大会で花開く、キャラクター漫才の片鱗が見られます。
福田さんのツッコミもこの頃はまだ、あまり怒りません。
お笑い芸人のキャラクターって、本人そのまんまの状態ですでに強烈な「天然素材」と、演技によって作られた「養殖」の2種類があると思っています。
大体は「養殖」のほう。
なので、キャラクター漫才する人って演技が上手いんですよね。
もちろん普通の漫才も演技だけど、より作り込まれたものだと思っています。
オチで、ちょっと上手いっぽいこと言おうとする文化も、第一回大会ではまだありましたね。
何だか懐かしい気持ちになります(笑)
アメリカザリガニ
「ドライブスルー」
松竹芸能からの刺客のうちの1組。
みんな、演芸番組のノリで来ちゃってるから、いかに4分を活かし切るか?という現代の大会に比べると、ネタに入るまでの前置きが長いです。
休みの日といえばデート...デートといえばドライブ...ドライブといえばドライブスルー...
...ちょっと長いですよね(笑)
それでも、1テーマでネタを展開する数少ないコンビのうちの1組。
このネタ、爆笑オンエアバトルのDVDのバージョンも知っているのですが、いい感じで凝縮されていて、見やすいし、何より面白い。
微妙なくだりとかがカットされています。
スピードも、ちょっと早め。
武器として持っていた勝負ネタの、未完成だった部分を完成させて来ているというのか。
何か賞レースの戦い方を知っている感じがします。
おぎやはぎ
「歌手になりたい」
小木さんが設定言うだけでウケるっていうのは何なんでしょうか?(笑)
当時は雰囲気系だとか、シュールだとか、色んな事を言われて神格化されていたように思います。
僕が養成所に入った頃もまだ解明しきってなかった様に思います。
表面だけマネして大ヤケドした芸人さん数知れず...
僕もしばらく「何だこれ?」という感じで解っていませんでしたが、今こうして見るとコント師がする漫才という感じがしますね。
よくあるテンポあるボケツッコミというよりは、二人のやりとりの可笑しみで笑いを取っています。
矢作さんのツッコミも、間髪入れずにタイミングよくつっこむのではなく、ひと呼吸あって訂正フレーズをひとこと言って笑いが発生してますよね。
小木さんのボケしかり。
あとは、やはり言葉でバシーン!と突っ込む代わりに、間違いに気付いて止めようとする動きとか表情だったり。
これは僕には「演技でとる笑い」に見えるんですよね。
かつてシュールと言われていたコンビたちは、ほとんど演技ボケで説明できると思っています。
元々コントをメインでやっているコンビなので、テンポあるボケツッコミをやろうとしたけど、この時点では出来なかった様にも見えます(笑)
おぎやはぎが漫才を始めた当初の映像は、爆笑オンエアバトルのDVDで観ることが出来ます。これを観ると探り探りやってんな〜っていうのがかなりみて取れますw
よーく観るとアップになった時の矢作さんの細かい表情とか、演技が丁寧です。
小木さんのパワー?喋り方?なんとも形容しがたいとぼけたキャラクターも演技の笑いじゃないかなと。
超大ベテランの方とかだと、こういうの見たことあるのですが、コントの手法を漫才に持ち込んだのがおぎやはぎの新しさだったんじゃないかなーと思います。
スピードもゆっくりだし。
若手でいうと、ピスタチオやオズワルドから初期おぎやはぎの影響を感じますねぇ。
キングコング
「コンパ」
当時21歳!(驚)
何という華々しいデビューなのでしょう。
梶原さんの動きや表情のキャラクターを活かした漫才です。
おぎやはぎの演技のうまさ〜っていう技巧派感というよりは、もっとポップな感じのキャラクターですよね。キャラクターでいうとね。
もちろん漫才はめちゃくちゃ上手いです。
漫才スタイルもオーソドックスな感じで、いい意味で真っ向勝負という感じです。
王道って結構ベタだ何だって言われがちですが、だからこそ出来る人を選ぶんですよね。
「オーソドックスは本当に上手いやつじゃなきゃ生き残れない」と芸人時代によく言われました。
紳助さんの「ネタ選びはこれで良かったの?」とか、意味深発言などもありました(笑)
麒麟
「漫才を小説風にする」
これはリアルタイムでみた時は衝撃を受けましたねぇー。
出だしこそ「王道スタイルでいくのか」と思っていたら、後半にまさかああなるとは。
完全にワナにはまりました(笑)
まるで乾くるみのイニシエーションラブのようでした。
本当に小説風。
しかも、それまでの会場全体に漂う緊張感を、一掃するようなウケ方で空気が一気に変わりましたよね。
今にして思うのは、その大喜利力やインスタで、注目を浴びている川島さん。
発想の人なんですよね、やっぱり。
本当はコントをやりたかったみたいですし。
自分の得意なアイディア力を、漫才にした時に思っている以上の効果を発揮したのだとか。
特にエンタメなどの芸事は、好きなことだけやるんじゃなくて、自分がやらなそうな事、苦手そうな事をやっていくのも、武器を見つけるヒントだな〜などと思いました。
当時、無名だったお二人に、笑いのレジェンド松本さんが「面白い」って言ってたのが印象的でしたね。
ますだおかだ
「◯◯狩り・おかだの葬儀中継」
今やTVスターとなった岡田圭右さんのコンビです。
ますだおかださんは、シンプルに大喜利を羅列していくスタイルなんですが、そのボケの積み上げの構成が素晴らしいと思いました。
もう完全にムダが削ぎ落とされていて美しい。
まず「イチゴ狩り」という「⚪︎⚪︎狩り」への大喜利回答で笑いをとり、そのあと実演で深掘りして笑いをとって行く。
そこから3つ目に来た時、もうお客さんが飽きて大喜利回答はウケないだろう、というのを踏まえて、「寒がり」を岡田さんが取り合わず流し気味に対応して、「岡田どっか行けや」というスカシ気味のボケをするというのが素晴らし過ぎました。
DonDokoDon
「迷子のアナウンス・東京と大阪・着メロ・徹子の部屋」
審査員である春風亭小朝師匠に、関脇なのに横綱相撲をしちゃっていると評されていました。
この頃から山口智充さんことぐっさんは、メチャクチャ器用でギターも歌も上手くて漫才でもやっていた記憶があります。
今では良い人キャラのぐっさんですが、改めてこの頃の漫才を見てみると、「相方をイジリ倒す」「黒柳徹子が死んだら徹子の部屋の司会をじぶんがやりたい」など、ネタでは結構ブラックです(笑)
この漫才で特筆すべきは「漫才というよりぐっさんの漫談」だという事です。
ツッコミの平畠さんも所々でツッコんではいますが、ぐっさんが自分でオチを付けてる事の方が若干多い気がします。
(ツッコミでない所で笑いが起きているところがそうです)
器用だし、ネタ終わりのトークで紳助さんに「ネタ作る時間ないやろ」と言われるくらい、この時すでに売れっ子だったんでしたね。
この漫才のもったいない所はいくつかあります。
まずはフットボールアワーとデパートの館内アナウンスのネタが若干カブってしまった事。
もう一つはぐっさんのコメディー演技の能力が高すぎて、途中で笑いが起きてしまい、肝心のオチゼリフの時、緊張緩和の緊張が足りなくなってしまっていたこと。(でもヤマトはウケてましたね)
さらにスタンダードなボケツッコミに飽きてしまったのか、せっかく平畠さんのツッコミでウケていたのをぐっさんのオーバーリアクションで潰してしまっていたり。
あとは、ネタがちょっとオチを予想できてしまう部分があったり。
あとツカミの相方イジりは相当長く感じましたが、あれでもちょっとカットされてますよね?(笑)Amazon Prime版ですが、不自然なカット部分があります。
というかメチャクチャありましたね(笑)
でもこれは漫才がヘタクソだとかそういう訳ではなく、遊んでたんだと思うんですよね。
これまでも書いたように、M-1グランプリがどんなものなのか、この時点ではまだ皆分かってなかったので。
この辺りを見抜いて、小朝師匠は関脇の横綱相撲と言ったんだと思います。
でも当時の漫才観ると勉強になるし、今のTVスターも若手だったんだなという発見があって面白いですね。
ハリガネロック
「ムカつくカップル・結婚するなら」
爆笑オンエアバトルでも活躍中で、こちらのコンビもブレイク前夜という人気を携えて登場しました。
スタイルはボヤき漫才。
この頃は2人同時にツッコむというユニゾンツッコミでも注目されてましたね。
僕は好きでしたが、いつの間にかなくなってましたね笑
その辺のボケのユウキロックさんの葛藤は、ご本人の芸人迷子という本で語られています。
改めてM-1を見直してみると面白いのが、「あ、これは最終決戦に行くなぁ」思える事ですね。僕もお笑いを観て審査基準を知って長いからかも知れませんが。
笑いの量も、全組の中でも中川家同様、やはり湧き方が違いました。
(最近のM-1は基準はかなり審査員によるけど、この頃のを見直すとかなり順位まで納得)
最終決戦
中川家
「トチる」
冒頭のツカミでネタを飛ばすくだりが滅茶苦茶スリリングでした。
この大舞台でこういうギミックを効かすなんて、並みの心臓じゃできません(笑)
お兄ちゃんの気弱キャラも相まってドキドキしました。当時はホントにネタ飛ばしたと思いましたねw
そして本ネタは1本目に続いて、エピソード茶々入れスタイル。
コンスタントにボケを重ねていくのですが、その1つ1つのボケのクオリティーが高く面白い。着実に笑いを取って行きました。
そして、サンドイッチとタクシーの羽根のくだりで客席にデカイ笑いが2個起きました。
お笑いをずーっと見ていくとあまり笑わなくなるんですが、僕も改めて見ていて笑ってしまうくらいでした。
パフォーマンス自体、かなり調子が良かったんではないでしょうか。
ネタの完成度がすごくて、賞レース用に練り上げて来たんだろうなーと思えるくらいの仕上がりでした。2本目により良いネタを隠し持っていたという印象を受けました。
ハリガネロック
「学校が嫌だった・童謡・童話につっこむ」
ここも1本目と同じくボヤキ漫才。最初は学生時代、校則が厳しいのが鬱陶しかったというくだりでガッチリお客さんをツカミに行き、本ネタ「童謡・童話につっこむ」。
設定自体は、もはや小学生が喜びそうなコテコテのベタなネタですが、「食うてまえや」「食物連鎖」そこにユウキロックさんの荒っぽい口調での「毒ボヤキ」のような個性が、改めて観ると強く感じました。
笠地蔵を「イカれたジジイの妄想」というような、ちょっと言っちゃいけないことをあえて言っちゃうタブー感みたいな危うさも良いですよね。(今で言うところの金属バットのような)
ここも予選と同じく、1つ1つのボケを着実に笑いを取っていきました。
総評
ここから2019年まで続く若手芸人の憧れとなる大会も、第一回目はこんな感じでした。
今では、新しいスタイルである事が評価されますが、この頃は正統派漫才が勢力が強かったですね。関東の漫才師というのも、まだあまり居なかったように思います。
(本当は居たけど、スタッフサイドがまだ知らなかったり信用してなかったのはあるのかも)
生放送ならではのハプニングとして、司会の赤坂さんのコンビ名の言い間違いも、今でも語り継がれています笑
冷静にみると、紳助さんが司会もやりつつ、審査員もやるなんてムチャ過ぎんだろう、と思います(笑)絵的にも慌ただしいですよねw
優勝した中川家さんが番組に呼ばれてたくさん売れて行くのはわかりますが、斬新な構成で審査員もお茶の間も驚かせた麒麟さんが、知名度をここで勝ち取り、その後ネタ番組などに引っ張りダコ、というのが当時は印象的でした。
ハリガネロックさんは残念ながら解散してしまいましたが、 改めて見てみると、ほぼ全組が今でも活躍しているのがスゴい事ですよね。
あと最終決戦の審査システム。青と赤のボタンがあり、審査員が一人ずつ出てきてどちらかのボタンを押して、どちらに何票入ったかで優勝を決めるというものでした。
これは酷ですね(笑)いくつか問題があります。
①まず2組の本人たちがいる前で押さないと行けないのが気まずい。押されなかった方めちゃかわいそう。押す人胸痛い問題。
②最後に押す人の責任重すぎる。3対3で割れたとして(審査員は7人)、自分が押した最後の1票で優勝者が決まってしまうなんて荷が重すぎる。
③1票ずつ開票していったとして、「いま青3票入ってて、ここで自分も青入れたら優勝決まっちゃうから、ここで赤入れたら盛り上がるな...」みたいに変に空気読んじゃう問題。審査員も芸人で、番組の盛り上げどころもわかってると思うので、やっちゃう可能性があると思いました。ここで言うと西川きよし師匠で、師匠はやってたと思います(笑)
だからこそ2002年大会からはせーのでみんな出すものに変更されたんだと思います。
あと今大会で、会場票もなくなりましたね(笑)
お客さんは純粋な「面白いか?面白くないか?」で観ているので、テクニック的にどういう事が起きているかまではジャッジできません。どんなボケを言ったかだけじゃなく、実際の漫才演技のテクニックなんかは特に。
だからお客さんは絶対にいてもらわないといけないんだけど、それなら純粋な笑いの量で評価して貰うカタチでいいじゃん。という事になったのだと思います。
まとめ
こんな感じで、賞レースの歴史を振り返りつつ、解説をして行こうと思います。
これがこれからお笑いを学ぶ人の役に立ったり、お笑い好きな人へのエンタメになったら幸いです!
地味にシリーズになっています!